高瀬彼方『天魔の羅刹兵』@Anri

【あらすじ】
――戦国時代、種子島に伝来した武器は鉄砲ではなかった。
筋金入りの小心者・穴山小平太は、戦場で深手を負い、敵方である織田勢に捕らえられてしまう。荒ぶる御魂を宿し、操者を選ぶという最新式兵器「羅刹兵」に見いだされ、羅刹兵・狗神の操縦者として名将・明智光秀のもとに身を寄せる小平太。
戦乱の世、男たちはさまざまな思惑を抱いて血色の戦場を駆け抜ける。
(本書裏表紙より)


【書評】
舞台が戦国時代であることを除けば、ひょんなことから巨大メカに搭乗することになってしまった少年の話、という掃いて捨てるほど存在する使い古された設定の小説である。実際、主人公・小平太が苦悩し成長してゆくさまは、よくある「セオリー」に沿った、既視感を煽られるものだ。ヒロインが存在しない、という点では多少同情を感じはするが。
しかしこの小説のミソとなってくる部分はそこではない。とにかく羅刹兵がいかに強いかというところを描きたかったと言わんばかりの戦闘シーンと、鬱屈した感情を打ち破るカタルシス、要するに破壊の愉しさである。小難しい理屈はそこには存在しない。何故動くかではなく、どう動くかが重要なのだ。
破壊の愉しさ、とした限りは、破壊される側というものも必然的に描き出さねばならない。この小説での破壊される側は、かねがね歴戦の名将である。名無しの雑魚より歴戦の名将を倒したほうが気分がいいのは当然であり、またその名将を主人公よりよほど魅力的に描き出すことによって、戦場に散る男という不朽普遍のテーマも盛り込まれることになる。それもまた、破壊の愉しさのひとつだ。