○あらすじ
男の子と女の子は、隣りに住むおばあさんの家に遊びに行き夜が来るまでのわずかな時間に、いろいろなお話を聞くのが好きでした。―もう、あの村におばあさんはいません。男の子は、小説家になって、女の子は、歌手になって、ときどき、おばあさんのお話を、思い出しているのです。ドキリとする、ウルッとする、元気になる、胸が痛む、答えを探す、今はいない人を思い出す、そんな“心が動く掌編”25篇を収録。眠るまでのひとときに……。
(「BOOK」データベースより)
○感想
たった91ページの間に25編の短編、というよりも詩に近い内容が、黒星紅白さんの優しくて淡いタッチのイラストとともに描かれている本であった。
手に取った時はその薄さに驚いたが、さすがは時雨沢といったところで、温良で優しい雰囲気を醸し出し、背中を押してくれるような、大切なものにそっと触れるようなメッセージもある反面、少ない言葉で的確に人間の矛盾や心理もついている作品だなと感じた。
短編集というよりも大人の絵本といったほうがしっくりくると個人的には思う。
このシリーズは他に2つあり、「お茶が運ばれてくるまでに―A Book At Cafe」、本作、「答えが運ばれてくるまでに―A Book without Answers」の順に刊行されている。
時雨沢好きや絵本好きな方、あれこれ解釈を考えるのが好きだという方にはぜひとも読んでほしいシリーズである。
さて、我々文芸部の部誌は部員の小説を載せており、詩やエッセイなどは部誌に載せないため(フリーペーパーなどに載せることはある)、普段の活動として詩のようなものを読む機会というのは少ないのだが、たまにはこういうのもあっていいだろうと思い感想を書いている。
詩も小説も、ただ言葉が多いか少ないか、物語色が濃いか薄いかみたいな違いなだけで、作者のメッセージを発信しているという点では同じではないか、と本作品を読みながら思う。
俳句や短歌から見たら、詩と小説の区別は難しいのではないかと思う。
本作品においても、少ない言葉から受け取るメッセージはおそらく人によって様々であるが、その一つ一つが日常生活を送る上ではあまり考えない何かを揺さぶるように感じる。
それは大切なことであったり、忘れていたことであったり、見たくないことだったり、温かくなることだったり。
たとえ鋭いことであっても、温かく包み込む優しい言葉たちで溢れていて。
一行読むたびに想像し、話を読み終えるたびにメッセージを考える。
ゆっくりと味わう様は、まるでキャンディーのようである。
きっと、舐めていくごとに味が変わっていくような、何度でも食べたくなるような、そんな不思議な味のキャンディーなのだろう。
今のままのあなたでいいから、手の中にあるものを大切にして。
そして自分のことを大切にできたら、あなたの世界は少しづつ広がっていって、大切に思う人やモノが増えていくのかな。
そんな願いが、瑞々しい感性とともに込められた1冊ではないかなと思う。
私は、そんな温かい感覚を忘れずに、日々を生きていきたいと思った。