燈乃ままれ『まおゆう魔王勇者』@窪屋

あらすじ
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」
勇者「断る!」

王道RPGならば、クライマックスであるはずの勇者と魔王の対峙から本作は幕をあける。
魔王は勇者に、自分を倒しても戦争は終わらないと告げる。
人間と魔族の戦争を、本当の意味で終わらせるにはどうすればよいのか?――この壮大な問題を前に、敵対するはずの魔王と勇者が手を取り合い、経済学や歴史学の知識を縦横無尽に駆使して、世界の変革に真っ向から挑んでいく。(公式WEBサイトより)

感想
王道RPGのラストシーンのような状況から始まるこの物語は、魔王の発言から大きくその王道ルートを外れていくことになります。経済という概念すら存在しないこの世界で魔王は自らのことを経済学者だと言い、勇者に対して経済学的な観点で見たこの世界についてを説明します。最初は刃向っていた勇者でしたが魔王の的確な説明に徐々にこの世界の実情を理解し、苦悩することになります。そんな勇者に魔王は語りかけるのです。「『あの丘の向こうに何があるんだろう?』って思ったことはないか」と。まだ見ぬ世界を見てみたくないかと。そして二人は協力し、世界を変えることになる旅を始めることとなるのです。
 最初は二人から始まったこの旅はメイド長や元農奴のメイド姉妹、女剣士と様々な人々が加わっていくことになります。魔王の的確な立案により徐々に新たな概念が広がっていき、見る見るうちに人々の生活が向上していく最中、この世界の在り方を変えまいと中央の権力者たちによっての妨害があったり、魔族長同士による話し合いの場――忽鄰塔での蒼魔族の反乱など、様々な困難に立ち向かうこととなります。そしてとうとう巻き起こってしまった人間対魔族の戦争を終わらせるため、魔王と勇者はそれぞれの戦場で戦うこととなります。二人の前に立ちはだかる大きな壁。苦しむ二人を助けることとなったのは、魔王と勇者が鍛え上げた子弟たちでした。彼らの教えが子弟たちに受け継がれ、多くの人々が世界を変えようと戦っている中、魔王と勇者、それに女剣士は、世界を変えるため、『あの丘の向こう』を見るために最後の戦いへと赴くことになります。

 この物語は固有名詞があまり出てこず、登場人物の名前も『魔王』、『勇者』という表記に留まります。これはもともとこの作品がネット上の掲示板で書かれたものであり、その掲示板においては一般的な手法ではありますが、普段書店で売られている小説を読む方にとっては目新しいものではないかと思います。また、経済学や歴史学、工学、農学など多岐にわたる知識を上手く物語に取り入れている作者の知識量と構成力には驚かされるものがあります。
 ネット上で書かれたこの作品ですが、書籍化されており、紙の本で読みたいという方はそちらから読むことも出来ます。また漫画化やアニメ化などもされており、気軽にこの作品を楽しむことが出来ます。まおゆうの独特な世界感を是非皆さんにも味わってもらえたらなと思います。