「かき氷」「サマーソルト」「ハリケーン」@古川砅

 金曜日の夜、寿司子とサイゼリヤで飲んでたら「ねえアヤちゃんー、かき氷食べにいこうよー」ってワインを空けた寿司子が突然言い出したのね。私はプチフォッカでドリアをさらうのに忙しかったから、あーそいえばすぐそこミニストップだったねーうん食べたい食べたい後で寄ろってテキトーに返事したら、寿司子の奴は「そんなんじゃなくてさー、もっと、5000円くらいの」とか宣った。いや、そんなんってお前。ハロハロおいしいじゃん。私はソフトクリーム派だけど。
「大体5000円って、それもうかき氷器買えちゃうじゃん。ムリ。寿司子、寿司子すぎ」
「えー、でも5000円のかき氷器だと5000円の味にならないでしょう? 自分で作ろうとしたときの材料費とか人件費とか考えると、5000円っていう値段はむしろお買い得じゃないかなあ。アヤちゃんこそ、かき氷舐めすぎだと思う。もっとかき氷に真剣になろうよ」
「寿司子そうやって散財するからいっつも月末ピンチなんじゃん」寿司とかお菓子とか。
「♪〜(口笛)」
 5分くらい押し問答を続けたところで、そういえば大学からちょっと歩いたとこにアイス屋さんあったよねあそこの『〜宇治金時デラックス・ハリケーンver〜』がたしか1200円くらいだったからまずはそこから試してみようよって寿司子が言い出して、私はアイス屋さんのかき氷を1杯食べるよりはコンビニのソフトクリームを5本食べたいなあって思わないでもなかったんだけど、あんまりごねてもケチな感じがするし、食後のティラミスも運ばれてきたから、じゃあ来週の日曜日に集合で、ってことでかき氷の話は終わりにした。
 で、日曜日、待ち合わせ場所に行ったのよ。空は吸い込まれそうなくらい広くて、雲一つない青色で、それだけ見てるとまあまあ爽やかそうな雰囲気だったけれど、手元のスマートフォン曰く今の気温は34度らしいし、アスファルトからの照り返しがじりじり焦げるように熱いし、待ち合わせの時間になっても寿司子が来ない。セミがミンミンジャワジャワ鳴く音にもいい加減慣れてきて、LINEの既読も全然つかないからこれは寝坊だろうなー、って思いながら日陰でしばらく焦げてたら、案の定寿司子から「ごめんふつかよい」ってメッセージが来たわ。寿司子、弱いくせに飲みすぎるもんなあ。まあドタキャンは今に始まったことじゃないし。埋め合わせはまた今度してもらうことにしておいて、とりあえず「おだいじに」ってスタンプを押してから、うーん、これからどうしよう? ってちょっと悩んだの。
 それで、そのまま帰るのも何だしなーってアイス屋さんに行ってみたら、アイス屋さんの建物がキンキンに凍っててさあ。いや、凍ってたって言われても意味わかんないと思うんだけど、こう、でっかい氷柱? がカキーンって生えてて、その中にすっぽりアイス屋さんが埋まってる感じ。わかんない? がんばって。で、うわーなにこれーってドン引きしてたら、後ろのほうから殺気が飛んできてね。突然のことだったから私も焦って、殺気に向けて振り向きながら全力でサマーソルトキック(バク宙しながら蹴るやつ)をお見舞いしたんだけど、足ごたえがなくて。あれ、おかしいな? って思ってたら「ふぎっ」って音を立てながら足元にぬいぐるみが転がったのね。丸っこいペンギンのぬいぐるみ。私って意外とぬいぐるみが好きなんだけど、そんな私の審美眼的にも結構かわいいぬいぐるみだったの。で、わーかわいいって拾い上げようとしたら「人質に取るつもりだったペンに……お前……、一体何者ペン……」ってそのぬいぐるみがしゃべり出したから私もすごくテンパっちゃって。
「ええっと、普通の女子大生でありますけど」
「お前のような普通があるかペン……」
「喋るぬいぐるみに申されましてもいまいち説得力に欠けると思いますですが」
「ぬいぐるみではないペン……ごほっ、ペンペン侯sh」
「あ! わかった。あれやったのあんたでしょ、どうやったかわかんないけど。あれ中の人とか大丈夫なの?」
「人……? がはっ、朝からずっと無人だったペンが……」
「あー。定休日」
「くそっ……魔法少女シランスの首を取るはずだったペンに、この吾輩が……、こんなところで…………ペン」
「力尽きた」
 そしたらペンギンのぬいぐるみがさらさらーって風に散っていって、アイス屋さんもいつのまにか解凍してたのよ。何だったんだろうって私もちょっと考えようとはしてみたんだけど、まあ暑いし定休日だしどうでもいいやーって、ミニストップに寄って、ハロハロ食べて帰ったわ。
 別の日、寿司子にソフトクリームを奢らせながらこの話をしたら、寿司子(本名:静音)はなんか顔引きつらせながら「へ、へ〜。アヤちゃんのお家、中国拳法やってるんだ〜」とか割合どうでもいいことに感想し出したから、あっちゃあ熱中症で頭おかしくなったと思われたかなーまあ実際そうだったのかもしれないなーって流しながら、私は手元のソフトクリームを喫するのに集中することにしたの。