初野晴『退出ゲーム』@黎明

【あらすじ】
「わたしはこんな三角関係をぜったいに認めない」―穂村チカ、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。上条ハルタ、チカの幼なじみのホルン奏者。音楽教師・草壁先生の指導のもと、吹奏楽の“甲子園”普門館を夢見る2人に、難題がふりかかる。化学部から盗まれた劇薬の行方、六面全部が白いルービックキューブの謎、演劇部との即興劇対決…。2人の推理が冴える、青春ミステリの決定版、“ハルチカ”シリーズ第1弾(本書裏表紙より)。

【感想】
青春とは何だろうか。
例えば部活。同じ志を持った友達と切磋琢磨し合って高みを目指すその姿、確かに青春だ。
例えば恋愛。思い人の何気ない行動にドキッとしたり一喜一憂したりするその心情、確かに青春だ。
例えば友情。時には踏み込んでみたり、あるいは敢えて引いてみたり、相手の気持ちが分かるからこそ生まれるその距離感、確かに青春だ。
……こうやって青春足りえる要素を考えてみると、本書のあらすじにある「青春ミステリの決定版」という煽り文句は決して大げさなものではないのかもしれない。

本書は所謂「日常の謎」系統の物語だ。「結晶泥棒」「クロスキューブ」「退出ゲーム」「エレファンツ・ブレス」の4編が入った短編連作の形式を取っており、どれも人は死なないし、警察が動くような事件でもない。謎解き自体も読者の予想の少し先に解答が用意してあるので、真相に驚愕するというよりもあと一歩で分かったのにという悔しさが先立つかもしれない。しかし謎自体が小粒だからと言って物語まで小粒なのかと言えばそうではない。むしろ「日常の謎」系統の作品の魅力は、事件そのものよりも、その事件を通して浮かび上がってくる人間ドラマにある。真相を解き明かす過程で見えてくる登場人物の持つ秘密、あるいはなぜそんな謎が生まれたのかという動機、そして謎を解くことで明らかになる犯人の意志。本書で明らかになる真相はどれも一筋縄ではいかないものばかりである。しかし、それでいてどの物語にも綺麗な解決を用意しているのだから非常に上手い。

上記のようにミステリとしてきちんと作られている一方で、青春部分もかなり良い。主役のチカとハルタ吹奏楽部員として普門館出場を目指して部員集めに奔走する。新部員を勧誘するたびに事件に巻き込まれるので、結果として事件が解決するたびにメンバーが増えるという方式も面白いし、明るく元気で猪突猛進的なチカと、頭脳明晰なのにたまにバカみたいな行動を取るハルタのボケと突っ込みは読んでいて吹き出してしまう。三角関係に悩むチカも笑えるし(なぜ「笑える」なのかは本書を読めばわかる)、友達を増やしながら恋愛に部活に一生懸命なチカとハルタを見ていると「青春してるなあ」となんだか羨ましくなってくる。

個人的に気に入ったのは表題作である「退出ゲーム」。ここで扱われている問題は非常に難しいのだけれど、その解決が拍手をしたくなるくらいとても鮮やか。青春ミステリは数あれど、ここまで「青春」が魅力的に書かれている作品はそうないと思うので、興味を持たれた方は是非。