コリン・ウィルソン『現代殺人百科』@序二段

【あらすじ】
ここ20年来、全世界で発生した衝撃的殺人事件一〇三ケースの、犯人の手口と心理をリアルに抉る。事実のみが語り得る戦慄の恐怖。犯罪は、時代の気分を鮮烈に反映する。衝動殺から無差別殺人まで、「殺人の時代」の現代をヴィヴィッドに再現。セックス殺人からテロリズムまで、ありとあらゆる殺人の累計を網羅すると同時に、想像を絶するショッキングな事実をも呈示する。(「BOOK」データベースより)



【書評】
何ともものものしい題名の本である。内容としては様々な殺人事件を項目別に分けて紹介するどっしりぶ厚い本である。
絞殺、撲殺、刺殺、射殺、ギャング殺人、毒殺、セックス殺人、ホモ殺人、子供殺し、ばらばら殺人、カルト殺人、テロリズム、暗殺、誘拐殺人、大量殺人。この15の大項目を見ても字面だけでろくな本ではないことがわかるが、『カンサス州農業家族事件』や『ガイアナ人民寺院事件』などの事件名と犯人名を併記した小項目が103ありこれが収録事件数となっている。こう書くと『金田一少年の事件簿』みたいで様になっているように見えるが『恐怖の洗髪男』や『サドの毒殺魔』、『恐怖の人間ミンチ』のようにB級映画臭丸出しのものや、『完全犯罪を崩したパンティ』や『ホモの猟人日記』のように思わずクスりとくるもの、『ぐつぐつ煮込んだ人肉がおいしい』だの『今夜、女の子を殺したい』だの『豚は死ね!』だの直球すぎてよくわからないものまで、不謹慎とシュールを兼ね備えた素晴らしいタイトル目白押しで目次を読むだけでワクワクとドキドキが100倍になることは断言できる。


肝心の中身はと言うと全くもってシンプルで読みやすくまとまっている。読み手を煽るようないらぬ表現や偏見は見受けられず、事件の概要と登場人物の人間関係、捜査の進展や裁判の経過を淡々とそれでいて的確に分析している。衒学にも哲学にも走らずあくまで現実の事件をあるがままのものとして整理し考察を加えており、資料的価値を十二分に感じさせる客観性を獲得している。もちろん面白目次にあるように古今問わず「殺人」を扱っているため残虐性や猟奇性、異常性がひしひしと伝わってくるため脚色なしでも気分が悪くなることは請け合いなのだが。


目次で体系化されており、項目ごとに時代や土地柄の分類が事細かであるため500ページのボリュームと合わせて大変読み応えがある本であることは間違いない。学術的好奇心で事件史に興味がある方からアングラ的好奇心で異常犯罪に興味のある方まで幅広い知的好奇心を満たすことを叶えてくれる良書であると言えるだろう。


不満な点があるとすればまず一つ目は日本の事件が少ないこと。戦前戦後問わず日本においても凶悪犯罪や異常犯罪は多数記録に残っており、どれも非常に魅力的な事件なのだが本書にはほとんど収録されていない。著者が日本人ではないこととやや古い本であることを踏まえると仕方のないことではある。
二つ目は訳がお世辞にも上手とは言えないこと。というよりもこの言い方自体がお世辞である。学生が訳したのかと勘繰ってしまうほどに意味不明な訳が散見される。全体として読むに堪えないことはないが中学生並みに逐語訳に頼っている部分が多く、訳書としての価値を落としていることは否めない。



ちなみに私はこの本を中百舌鳥駅天牛堺書店で200円で購入した。amazonでは2000円越え、普通の本屋には新品すら並んでいないものだったので感激したことをよく覚えている。保存状態も大変素晴らしいもので、手に入れたときは文字通り狂喜乱舞したことをここに記しておく。