真保裕一『最愛』@刹那

[あらすじ]
小児科医の押村悟郎のもとに、刑事から電話が入った。18年間、音信不通だった姉・千賀子が銃弾を受け、意識不明で病院に搬送されたというのだ。しかもそれは、千賀子がかつて殺人を犯したことのある男との婚姻届を出した翌日の出来事だった。姉は一体何をしていたのか―。悟郎は千賀子の足跡を追い始める。
(本書裏表紙より)

[感想]
 本書を一読してまず感じたことは、爽快感であった。
 十八年間音信不通だった姉が巻き込まれた、不可解な事件。一体、姉に何が起きたのか? 悟郎は千賀子に関係のある人物をあたり、自分の知らない千賀子という人物を形作って推理していく。しかし、情報が増えれば増えるほど千賀子という人物がわからなくなる。何故千賀子はそんなことをしていたのか? 千賀子に対する疑問が増えていくのと並行して、悟郎に対しても疑問が芽生えてくる。どうして悟郎は十八年間一度も関わりのなかった姉の心情を断定的に語れるのか? どれだけ胡散臭い情報を手にしても姉を信じていられる、その根拠は? 元々調べていたのは千賀子の事件のはずなのに、いつの間にか本文にはない謎が増えていく。
 ラストには、事件のことはもちろん、千賀子のことも悟郎のことも、すべての謎が一気に解ける。そこに爽快感があった。
 改めて再読してみると、そこに疑問を感じることを前提としていたのだと感じた。先を知って読むことによって、細やかな伏線が多く浮かび上がってくる。是非、一読後少し間隔をあけて読み返してみてほしい本である。