『鳥籠荘の今日も眠たい住人たち〈1〉』壁井ユカコ@甘味重

以下内容(amazonより引用)
(「BOOK」データベースより)
“ホテル・ウィリアムズチャイルドバード”、通称“鳥籠荘”には、普通の社会になじめない一風変わった人々が棲みついている。妄想癖の美女、ゴスロリ小学生、ネコの着ぐるみ、不気味な双子の老人、そして響き続ける正体不明の金切り声。そんな“鳥籠荘”の住人の一人・衛藤キズナが、5階に住むひきこもり美大生・浅井有生と知りあったのは16歳の冬。そして、誘われたバイトは、絵のヌードモデル。やってみることにしたキズナは、油絵具の匂いがこもる雑然としたアトリエで浅井と一緒に過ごすうち、その時間が自分にとって次第に大切な日常の一部になっていくのを感じて…。“鳥籠荘”のちょっとおかしな住人たちの、ちょっとおかしな、けれどいろいろフツーの日常をつづる物語。


壁井さんのNo Call No Life を過去に読んだが、個人的にはこちらの作品が好みであった。
No Call No Lifeは現代の高校生を切り取った、現実にあってもどちらかというとおかしくない物語である。しかし、鳥籠荘の〜は、まず現実にはありえないようなキャラクターが登場する、ライトノベルの雰囲気を感じる物語である。(というか、電撃文庫から出ているのでこれはライトノベルと言い切れるかもしれない。)
両作品を読んだ上で、筆者の文章は、後者の雰囲気にとてもよく似合っていると感じた。

私がこの作品をお薦めしたい理由は、筆者独特の文章表現にある。ひらがなカタカナの多い、軽やかで読みやすい文章に、少女のかわいらしさと諦念の涼しさが混じっている。
鳥籠荘のキャラクターたちは、一人一人に愛すべき個性があり、それが非常に上手く書けている。一話は短編形式で書かれ、必ずしもハッピーエンドと言い切れない結末、ややリアルな中途半端さや冷たさが心地いい。基本的には温かい血液の感じられる物語であるからこそ、筆者の文章は現代をひたむきに明るく生きる、生きたいと努力している、少女のようなのだと思う。
ちなみに、私はハッピーエンド好きなことも、この作品を取り上げた理由の一つであると加えておきたい。ラストのヤマ場でのドラマチックな台詞やトントン拍子な盛り上げ方も、素直にいいなと思える力がある。


この小説の下地には、きれいなものや夢みたいなもの、そしてたっぷりの優しさが敷き詰められている。
その上に、生きているうちについてしまった取れない汚れや、取れる汚れ、意識的につけてしまった汚れやなんかが付着している。
とてもさわやかで、優しい心になれる物語である。ゆったり日常系の好きな人、ふわゆるあざとい系女子に、是非とも読んで欲しい作品だ。