林 真理子『葡萄が目にしみる』@祈灯愁

あらすじ
葡萄づくりの町、地方の進学高校。
東京はまだ、たったの五回しか行ったことがない。
自動車の車輪を軋ませて、乃理子は青春の門をくぐる。
生徒会の役員保坂に寄せる淡い想い、そしてラグビー部の超スター岩永との葛藤。
冴えない容姿にコンプレックスを抱き、不器用な自分をもどかしく思いながら過ごした頃――。
目にしみる四季の移ろいを背景に、素朴で多感な少女の青春の軌跡を鮮やかに描き上げた、感動の長編小説。
(本誌裏表紙より)


感想
私にとってこの本の感想は「素朴」の一言です。
特に大きな物語上の波があるわけではないんです。
心にじんわりときたわけでもありません。
しかし、この物語には読者を惹きつけるだけの文章力があります。
ここにあるのは理想ではなく、現実です。

キャラクターの名前が序盤に多く出てきて把握しづらいかもしれませんが、キャラが確立されているので読みにくいことはなかったです。
主人公の乃理子は性格が多少ひねくれていますが、恋する少女で考えを共有しやすかったです。
保坂は憧れの先輩であり、この小説は一人称なので若干の美化が含まれています。
岩永はやんちゃボーイで、いいキャラしています。

主人公の乃理子が中学卒業から、主に高校生の三年間にスポットを当てて、最後に社会人になった人生を描いています。
周りの友達に浮き足立った話があるにも関わらず、自分にはなかなか降りかからない。
きたと思っても、それは儚い自分だけの幻想だった。
そんな日々がこの本にあります。
時代の隔たりや環境の違いにより想像しにくい部分もありますが、面白く読めました。
特に青春にはつきものの恋愛は万人に親しみがあるでしょう。
一気に時が経つ瞬間がありますが、それがまたいいところにあるので違和感がまったくないです。
私も一人の書き手として、この文章力、物語構成力は見習いたいです。
ご都合主義がないので、その分身近に感じて読んでいける作品だと思います。
私は読み終えた後は余韻に浸りたい気分になるのですが、これは早く読み返したい。
そんな風に思ってしまった作品です。


この本は「感動の長編小説」となっていますが、私は認めません。
これはある一人の女性にあるかもしれない日常短編小説です。


次回は「七つの海を照らす星」七河迦南だと思います(三週間後??)。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。