瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』@深舟

あらすじ

仕事も人間関係もうまくいかず、息が詰まりそうな辛い毎日に疲れた千鶴は、会社を辞めて死ぬことを決意し、北へ向かう特急電車に乗った。そして辿り着いた山奥の民宿たむらで、大量の睡眠薬を飲むのだが、死に切れなかった。自殺を諦めた彼女は、民宿の主人・田村の大雑把な優しさに少しずつ癒されていく。大らかな村人や大自然に囲まれた充足した日々を送る中で、しだいに千鶴は自分の居場所がここにないことに気づいてしまう。(Wikipediaより引用)


なんといっても著者の作品の魅力は、その巧みな情景描写と無駄の無い文章にある。

今作では山に囲まれた村を舞台として物語が展開していくのだが、ページを進めていくうちに何度も目を瞑ってその情景を想像してみたくなるほどに描写が上手いのである。
そして、食事のシーンでは本当に涎が出てきそうになってしまうほどに料理が描かれている。
著者の作品に一貫して言えることだが、本当に著者は料理を描かせたら天才だ。


また、この作品は総ページ数が200ページに満たず、1日あれば楽々読めてしまう。
さらに文庫版ならなんと400円を切るという破格の値段なのである。
しかし、その内容はまったく薄っぺらさを感じさせない。
それは登場人物があまりにも人間らしいために、何度も主人公に感情移入させられ、考えさせられるからであろう。


主人公が自殺を決意するところから始まるこの作品。

物語としても楽しめ、考える教材としても重宝する。

ふと読み返したくなったら、それはもう著者の虜となった証拠である。

何度読んでも、何度その村へ足を運んでも待っているのは変わらない風景。

しかしその変わらない風景は何度見ても飽きないから不思議だ。

あなたもこの民宿たむらで過ごす日々に入り込んでみてはどうだろう?