安孫子武丸『8の殺人』@草一郎


孫子武丸(著)
文庫: 354ページ
出版社: 講談社


8の字屋敷で繰り広げられる殺人事件


 我孫子武丸の処女作。8の字の奇妙な形をした館で起きる二つの殺人事件を、刑事とその弟妹が解き明かす。推理小説にありがちな荘厳さを作者特有のギャグで払拭、本格に馴染のない読者でもすんなり読める。一方で、カーやドイルなどの古典作品を事件解決の引き合いに出し、本格を愛する読者にも楽しく読めるように配慮している。

 容疑者としてあげられる人物は、みな型にはまったキャラクターばかり。たとえば、館の所有者である老人は頭がぼけているし、その孫は口の利けない美女である。他にも酒におぼれた熟女やギャンブルにのめり込んだ放蕩息子など、いかにもなキャラクターがほとんど。それゆえ、すべての登場人物を把握・整理しやすく、簡単に物語に入り込める。

 二つの殺人事件のトリックは画期的なものではない。俗にいう『密室殺人』である。ただし一つ目の事件は、死体のあった場所ではなく、犯人がいた部屋が密室。二つ目の事件は、完全に密閉されていないが誰も出入りしたはずはない『準密閉』だ。一つ目のトリックはぼんやりと分かったが、二つ目のトリックは全く思い付かなかった。

 特異なキャラクター、不可思議な密閉殺人だけが、本書のアピールポイントではない。本書の一番の特徴は、やはり作者ならではのギャグだろう。本筋とは無関係な会話、コントのように怪我の度合いが重くなる主人公の部下は、それを指摘するいい例だ。特に少し上ずった声が特徴の田村和正警部はギャグそのものだ。くだらない茶番劇に、何度も笑ってしまった。


あらすじ
 建物の内部にある中庭が渡り廊下で結ばれた、通称“8の字屋敷”で起きたボウガンによる連続殺人。最初の犠牲者は鍵を掛け人が寝ていた部屋から撃たれ、二人目は密室のドアの内側に磔に。速水警部補が推理マニアの弟、妹とともにその難解な謎に挑戦する。(amazonから引用)