中村啓信「新・古事記物語」@刹那

[あらすじ]
千二百年を超える大昔に語られた古事記説話は、新しい学問的裏付けをもって再構成することによって、現代人の魂を揺さぶり、新たな感動をもって迫る。この世の創まりから国生み、天下を治める支配者の誕生、そして天皇の全国制覇に至るまで、古代日本人の生きざまを見事に描いた筆録者太安万侶のロマンの世界を今に蘇らせる本書は、『日本書紀』は言うに及ばず、中国の典籍、伝説をも参看しつつ、『古事記』の世界を浮き彫りにする。
(本書裏表紙より)

[感想]
 本書はわが国最初の古典であるといわれる『古事記』の真実に近づこうとしている本である。
 裏表紙にもある通り、『古事記』そのものの記述、『日本書紀』、『風土記』、中国の典籍、本居宣長の『古事記伝』など、あらゆる時代、あらゆる場所の資料を用いて『古事記』をひもといている。
 天地開闢、国生み、そして天孫降臨。魅力的ではあるが難解な『古事記』の世界を、平易な文章でここまでわかりやすく説明していることに素直に驚嘆する。さすがにまともに『古事記』を読んだことのない人には厳しいかもしれないが、現代語訳しか読んだことのない私でもすんなりと頭に入れることができたので、専門書にしてはかなりとっつきやすい部類に入ると思う。
 個人的には、時として論理が飛躍してはいないだろうか、と不思議に思うこともあった。が、そこはそれ、古典を読むにあたって作者の表現しようとしたものをすべて理解することなんて夢物語なのだから、いろんな解釈があって当然である。本書も、ただ単純に『古事記』の記述を読んでいったらこんな風に読めました、という筆者の論を書いただけのものだ。
 もしかして興味があるなら、本書を読んで『古事記』の真実に近づいてみた気になるのもよいのではないだろうか。