佐藤多佳子『黄色い目の魚』@甘味重

あらすじ
海辺の高校で、同級生として二人は出会う。周囲と溶け合わずイラストレーターの叔父だけに心を許している村田みのり。絵を書くのが好きな木島悟は、美術の授業でデッサンして以来、気がつくとみのりの表情を追っている。友情でも恋愛でもない、名づけようのない強く真直ぐな想いが、二人の間に生まれて――。16歳というもどかしく切ない季節を、波音が浚ってゆく。青春小説の傑作。(新潮文庫裏より)


感想
『一瞬の風になれ』で本屋大賞を受賞した佐藤多佳子さんの作品。
この人の作品は読時の安定感がハンパないなと個人的に思っていて、今回もさらりと、だけどやっぱりハンパなかった。
安定の青春小説である。色々な青春小説があるが、この本に出てくるキャラクターたちはみんな変にスレていなくて、「本人の感じる」心のうちを素直に全部見せてくれる。
共感できるポイントもわかりやすく、文体もフランクなので、物語に入り込みやすいのではないだろうか。
みのりの感じる思春期らしい気恥ずかしさも、木島の感じるどうしようもない緊張感も、読んでいて非常に臨場感がある。
個性豊かなキャラクターも魅力的だ。最初はそんなに好きじゃなくても、きっとじわじわ好きになる。

思春期で自分を上手くコントロールできないあの感じを、輪郭を巧みになぞることで読者自身に呼び覚ます、そんな小説であると思う。
汗臭いのにさわやかで、時に見苦しい。そんな学生時代の感情を思い出しながら読んでほしい。