岡田淳『扉のむこうの物語』@祈灯愁

あらすじ
もうひとつの世界はすぐそこに!
空間と時間がねじれた「むこうの世界」でさまよう行也たち。
こちらへもどるための扉はもうないのだろうか。
「こそあどの森の物語」シリーズで人気の岡田淳による大長編ファンタジー
(表紙帯より)


感想
この物語はただの児童文学ではない。
物語とはこういう書き方があるよというのを提示してくれている。
拙い一作家としても読者としてもこれほどまでに楽しませてくれるとは、良い意味で想定外だった。
はじめはそこまで期待していなかった。
友達の勧めで借りたものの、ある程度先が読めてあまり感動しないのではと思った。
しかし読み進めていくうちに、私が普段携わらない話の展開に飲まれていった。
答えは冒頭部分にあり、それを回収していくお話だ。
子供にはちょっとした冒険心を、大人には懐かしみを与えてくれるだろう。


分類所で行也と千恵が議題に上った時はもうだめかと思った。
行也はよくあの場面で、「まほうをかけてもつくえよ」を思い出した。
コミカルな話の中にシリアスさも交えてワクワクドキドキを演出してくれている。


途中にある行也と千恵が見る夢か現実かわからない一悶着は料理に出てくるスパイスであった。
ここでほんのりと恋愛を連想させてくれる雰囲気も醸し出してくれる。
二人のきずなが深まるのを感じるひと時だ。
ここで空かされる物語の真実、そして驚愕。
現実世界での倉庫内の事件はママ、なぜ気づかなかったと叫びたくなる。


またその前の五十音表の一件も面白い。
あの場面での行也は誰もが簡単に行動できることではない。
私だったらあのままで止めることなど到底できなかったであろう。
それまで行也の気にしていた男らしさをここで遺憾なく発揮できたと思われる。
あの場面で三人はハッピーエンドで物語は決まったかと思った。


しかし最後には、しんみりするような展開もあった。
ピエロのことはもちろんのこと、その後のわし、ふくろう、マンドリルの行動にはただ利用しようとしただけではない別の理由があったと信じたいところだ。
行也の冒険の終わり。
全てがうまくいったわけではない。
ハッピーエンドを思い描いていた行也の心境はその後のことで少し語られていてよかった。


そして最後に驚いたのはこの作品が1987年にオリジナル版が刊行されている点だ。
2014年大学生の私が1987年の作品を読んで楽しんでいる。
これこそ時を遡って現代へ感動を運んできてくれたのだ。
何だかこの本を読んで私はもっと前にこの物語と出会っておきたかったと思ってしまった。


以上でこの物語の語りを終わらせていただきます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
あなたも一度物語を作る楽しみを味わってみてはいかがでしょうか。