仁木英之『撲撲少年』@楽惰三合

あらすじ
勇吾は地方から上京してきた平凡な大学生だ。
あるとき、バイト先で幼なじみの湊と出会い、旧友の鉄也が赤坂にある総合格闘技のジムに通っていることを知らされる。
勇吾がジム「アライズ」を訪れると、そこには昔と変わらずひ弱そうな鉄也が練習に勤しんでいた。
鉄也に誘われ、興味本位でスパーリングすることになるが、ひ弱な鉄也に惨敗する。
悔しさのあまりジムに通い始めた勇吾。だが、やがてプロ格闘家の姿勢に触れるうちに、次第に競技としての格闘技に魅力を感じ始める……。
出典 amazonの内容紹介

感想
私は格闘技というものをほとんど知らない。そのため、格闘技を扱うこの作品を楽しめるかどうか不安だった。
しかし、文中にある専門用語には丁寧な説明がされており、非常にわかりやすく、また、例えわからなくても、心を熱くさせてくれる文章だった。勇吾が練習や試合に全力でぶつかる場面はまさに手に汗握るほどだ。格闘家の人たちが何を考え、なぜ強くなりたいのか、勝ちたいのかが、文面を通じて伝わってくる。
ただ、格闘技というところに比重を重くしすぎていて、人物像の掘り下げや人間関係がどうなっているかが弱いように思える。
格闘家以外の人々との人間関係がうすく、バイト先の人々や、勇吾の父の親友である登山家といった物語前半に出てきて、重要そうな人たちとの交流はほとんど描かれておらず、幼なじみである湊や鉄也との関係図は説明が不足されている感があり、湊や鉄也の行動理由がはっきりしない部分が多々ある。
仁木英之先生の特徴とも言える人物像の掘り下げ、人と人との細かな感情の動きといったものは弱い。一方で、総合格闘というマイナーなものを扱い、初心者でも楽しむことができ、格闘というところは非常に満足できるものだった。

余談
仁木英之先生の代表作に『僕僕先生』というものがある。そして、私は『僕僕先生』のヒロイン(主人公?)である僕僕先生が大好きだ。中1のとき初めて『僕僕先生』を読んで以来今なお恋焦がれる女性である。
そして、この作品のタイトルは『撲撲少年』。僕僕ではない。撲撲だ。
私は先生と少年の違いはあれど、「よっしゃー! 新しい僕僕先生の新シリーズか? まあいいや、どこに僕僕先生出てくるかな〜。楽しみだな〜」という非常にわくわく感に満ちていた。府立大に合格したとき以上のわくわく感だ。表紙絵に描かれた湊の姿と、僕僕先生の姿がピッタシだったため、わくわく感はぐんぐん鰻登りだった。
しかし、ページをめくれどめくれど先生の姿は影も形もなく、おかしいなと思って表紙を見て気づいた。「あ、部首が違う……」と。
完全に私のミスであるが、その時のガッカリ感はすさまじいものだった。アベノハルカスの屋上から路上に叩きつけられるほどのガッカリ感だった。試したことはないけれど。
その後、別作品として最後まで楽しませていただきました。