お題『すずめ』『詩』『フード』@三奈月かんな


役に立たないフードが風に揺れている。
アカリは、朗々と謳うようにメロディを奏でる親友を見ながらため息をついた。
親友であり、幼馴染でもあるユキは、コーラス部のエースで、素人のアカリが聞いても飛びぬけて綺麗だと感じる。
家の近くの公園で練習するのはいつものことで、その歌声はアカリたちの存在に慣れた鳥たちが近寄り、気持ちよさそうに聞いているほど。絵本か何かの創作かと思うような光景ももう、アカリにとっては見慣れたものだ。
アカリの座っているベンチの端にもスズメがとまって、身動きもせずに聞き入っている。ユキの歌声は、人も動物も聞き惚れる魅力があった。それは聞き慣れているはずのアカリにも例外ではない。
そんな幼馴染が誇らしくあり、そして、ひどく苛々した。
ユキは童顔でどこか柔らかな雰囲気をまとう外見とのんびりとした性格で人気者だ。告白されたことも一度や二度ではない。もちろん、それに頷いたことはないようだが、いつ、誰かに転ばないとも限らないし、そもそもユキが告白される、ということ自体がアカリには気に食わなかった。
――――ユキは、アカリの幼馴染で、アカリの親友だ。
ただ自分のものであり続けてほしいわけではない。
その存在を誰にも知らせないで、ただアカリだけのものでいてほしい。
それがアカリがユキへ抱く感情だ。
しかし、そんな自分のユキへの感情は執着じみていることも、それがあまりに強いことも、アカリは自覚していた。だから、それを表だって出すこともできず、ただ自分の抱く感情に振り回されるだけ。
そして、ユキの声が認められるということは、それだけたくさんの人にその歌が聞かれるということだ。
どんどんと、ユキを知る人が、ユキを好きになる人が増えていく。ユキと触れ合う人が増えていく。
それがもう、我慢ならないほどの苦痛でしかない。
「……どうやったら、ユキは独り占めできるのかな」
アカリの呟きに、スズメはちちっ、と鳴いて目を細めた。