三題噺

お題『墓』『赤い』『バラ』@さきん

「久しぶりね、ライザ」 真っ白な墓石に刻まれたライザの名前を指先でなぞる。 「……もう五年も経つのね」 なぞった手の薬指のダイヤが夕日で美しく輝いていた。 「あのね、私ライザのお兄さんと結婚することになったの」 だからね、今とっても幸せなのよ。ラ…

お題『紙』『モグラ』『嫁』@針古野虎

会社からの帰り道。私は久しぶりに商店街のゲームセンターに寄った。 家に帰りたくないからだ。私たち夫婦の間はとうの昔に冷え切ってしまっている。 今は妻と同じ家にいる事だけでも苦痛だ。私は彼女と離婚したい。 しかし、彼女はそれを認めてくれない。 …

お題『秘書』『冷凍室』『蝋燭』@助野 神楽

「次、僕の番だね。タイトルをつけるとしたら、『冷凍室にて消失』かな」Aが言った。 五人の男が各々胡坐をかいて、円を成すように座っていた。 中央には、火の灯った蝋燭が数本、消えたそれが数本。 「これはある中小企業の社長と、その秘書が体験した話な…

お題『図書館』『鍵』『ストラップ』@窪屋 綾人

『私は図書館でストラップの付いた鍵をなくした』 一行だけポツンと書かれたノートを見て、早織はぼやく。 「なにこれつまんない!」 そう言って彼女は手元のノートをパタンと閉じた。表紙に『三題噺帳』と書かれているそれは、彼女自身が課した毎週の課題で…

お題『ザリガニ』『橋』『テント』@三奈月かんな

釣り上げられ、橋の上に置かれたバケツに放り込まれたザリガニが泡を吹き出している。わずかばかり入れられた水すら照りつける太陽で茹だっているのだろうか。 たまに底を這う音がして、まだ生きているんだなと確認できた。 季節は夏真っ盛り。人を刺し殺せ…

お題『ペン』『傘』『水草』@師父

『ペン』『傘』『水草』 水性ペンの、紙と擦れるあの摩擦が、僕は嫌いだ。 彼女はノートにピンクのマーカーを引いていく。胃の縮むような音を立てて。 清潔な部屋。硬質な音。微かなカルキの臭い。ぬめりとした感触。 プレパラートに載せた水草は、下から照…

お題『ロッカー』『花』『石けん』@奏彼方

卒業式の後、私たち夫婦と担任の先生は茜色に染まる教室に来た。なんでも、さくらの私物がロッカーにまだ残っていたらしい。 教室に入って一番に目に入ったのは、黒板に書かれた「卒業あめでとう」の文字とそれを取り囲む寄せ書きだ。 子供たちがここでかけ…

お題『睡眠』『布団』『アイスクリーム』@さきん

現在午前五時。カーテンの隙間から朝日が差し込む。数匹の蝉が早くも鳴いていて暑苦しい。 もう朝になってしまったのか……。今日中に提出しなければならない課題レポートはまだ書き終っていない。 レポートはあと数時間で終わりそうだし、ひとまず休憩しよう…

お題『自転車』『パジャマ』『絆創膏』@針古野虎

私は枕元にある目覚まし時計を見て愕然とする。 時刻はすでに目覚ましを設定した時間を大きく回っている。 やばい。あいつが出発する電車の時刻までもう少ししかない。 私は急いでベッドから起きあがる。 最後がこんな姿なのは恥ずかしいが身支度を整える時…

お題『窓』『蜂蜜』『宝物』@掛流野カナ

朝の香りを含ませて、爽やかな風が吹き抜ける。開け放った窓から吹いてきたその風は、私の髪をなびかせた。 おひさまのにおいが強い気がする。夏が近いからだろうか。 小鳥の鳴き声に混じって、微かなブンブンという羽音が聴こえてくる。 彼らは働き者だ。隣…

お題『法則』『魔法』『新聞』@助野 神楽

「『我流マーフィーの法則 No.167 相談相手の真剣さは、相談の内容の重要度に反比例する』、何これ?」 「ちょっ、なんで勝手に見てるんですか!」 「マーフィーの法則ってあれ? 雨が降った日に限って傘がない、っていう。久しぶりに聞いたよ」 「返して下…

お題『針』『象』『仙人(仙女)』@窪屋

仙人の下へ一人の男が訪れた。男は言う。 「仙人様にお尋ねします。仙人様のお力で象を針の上に立たせることは、出来ますでしょうか」 仙人はいとも容易いと答えると、針と象を呼び寄せた。そして現れた象を見事、一本の針の上に立たせたのだった。とがった…

お題「やかん」「苺」「草」@三奈月かんな

青くさい匂いが充満していた。 日も落ち、気温は徐々に下がってきているのだが、昼に満ちた匂いがなかなかなくならない。しかし、広い草原の中ではそれから逃れることはできない。草を刈って作った小さな円の中でたき火をしつつ、時折空を見上げる。風はあま…

お題「レポート用紙」「密室」「ビーフシチュー」@鉾谷曾良

レポート用紙を折って、紙飛行機を窓の外へと放り投げる。 高校三年の夏、授業が退屈で、私はぼうっと外を眺めていた。太陽が照りつける運動場で、だるそうにサッカーをしている男子生徒達が見える。一方、冷房の効いた教室では、なんだか難しげな話をしてい…

お題「西」「ファミコン」「憂鬱なメガネ」@窪屋 綾人

私、近野 明香里の趣味はゲームである。それはもう友人全員が『明香里は根っからのゲーム廃人だよね』と口を揃えて言うほどのものだ。 そのせいか、若いころから視力が悪く、高校2年となった今では分厚いレンズのメガネをかけなければいけなかった。はぁとた…

お題 「雪」「竜」「ぬれた小学校」@たぬき

今年四月五日、人口二万人の我が街に竜が住み着いた。空に轟く咆哮と共に舞い降りたその巨大な体が街に飛来してから、かれこれ三か月になる。奴が新種の生物なのか、それとも異世界からやってきた化け物なのかはわからない。ただ一つ言えることは、奴のせい…

 お題「諦め」「お好み焼き」「パソコン」@師父

やあやあ、なんて気軽さで俺のテリトリーに侵入してきた奴は、ショバ代と言って飲みかけのコーラのペットボトルを炬燵に置いた。元々500 mLの、残り三割。 「おう、それがショバ代なら飯代は別に払うんだよな」 終電を逃したからと同情する気はない。という…

お題「充電器」「肉じゃが」「ホテル」@甘味重

「ダメよ、あなた……。おかずが焦げちゃうわ」 「そんなこと言ったって、お前、もうここがナイトモードに入ってるぜ。体は正直だな」 「やだ、もうっ……たっくんのイジワル」 会社から帰ってきて、ただいまおかえり、おフロにする? ごはんにする? それとも………

お題「アイスクリーム」「ダンベル」「教室」@伏木朔

放課後の教室で待ち合わせるのが、私たちの約束だった。 「別れよう」 別れを切り出したのは私の方だった。いつもと同じように一緒に帰ろうとしたところで、突然別れを切り出した私に彼はとても驚いた様子だった。 「・・・なんで、そんな急に」 「付き合っ…

お題「ナイフ」「道場」「カクテル」@坂野裕人

時刻は午後七時、とある道場にて、戦いの火蓋が切られようとしていた。 「さあ、ついにこの異種格闘技トーナメントも残すは決勝戦のみとなりました!」 観客が作り出す熱気は、道場全体が燃えているかのように熱く、轟々と唸りをあげている。 「選手の入場で…

 お題「夕陽」「ヤカン」「暗黒の運命」 PN たぬき

『暗黒』はその日、日が暮れるまで、とある学校の家庭科室で身を潜めていた。狭く暗い空間で、自分が外に出られる時をじっと待つ。 鮮やかな紅に染まる空には赤く燃える夕陽があり、教室内を夕陽の色で包んでいた。生徒達が直し忘れたのだろう、食器やヤカン…