お題『グラウンド』『SF』『目薬』@三奈月かんな

しぱしぱする目をぎゅっと閉じて、かなえは目の前に広がる景色を遠ざけた。いつも使っている目薬はあいにくと昨日きれたところだった。 教室の窓から見えるグラウンドでは、陸上部員が今日も元気に走っている。かけ声、足音、ホイッスル、水音、砂のはねる音…

間武「日常を袋詰めにして、海に捨てた罪」@青桐李

本の紹介「人知れぬ愛の過ぎ去りし/遠くのびた二本の轍に/濁った涙が溜まっている」(人肌硝子)、 「立ちすくむ裸のおまえ/俺の舌が螺旋につたう/巻きつく柔らかな銀糸のように」(うわめづかい)、 「匂い立つ鉛色の殺意に/手を添え引き金を引く/重心の狂った…

お題『アヒル』『紅茶』『麻雀』『桜』@窪屋

三題噺というか四題噺ですが、そこはお気になさらず。 暗い部屋の中心には一台の雀卓。俺は扉から一番離れた側に座っていた。右隣にはひょろい幸薄そうな男、左隣にはスーツを着こなした男が座っている。二人の本名は知らないが、それぞれ『桜男』と『紅茶男…

タキガワマミ「山口あるある」@麻木

○内容今も昔も、山口には「ぶちすごい」がいっぱい。我らがお国自慢をたーぷり詰め込みました。(「BOOK」データベースより)○感想 本を見た時、山口県民としてはこれは買わざるを得なかった。中身を見ると大きく食、地域、歴史、文化・人物という4章構成で、…

お題『自画自賛』『パパラッチ』『新聞配達』@師父

ねぇ、刑事さん。例えば、です。あなたが人数の少ない弱小の部活に所属していて、活動実績を上げなければ廃部と言われて。それでも必死に立て直そうとしたなら、どうします? 私は新聞部に所属していたんですけどね、ええ、学校内のイベントを取り上げて記事…

お題『ダイイングメッセージ』『障子』『台所』@助野 神楽

「事件が起こったのは片田舎にあるごく普通の日本家屋。被害者はその家に住む主婦だ。亭主は表具師をしている」 先輩は唐突に話し始めた。 「被害者はリビングのテーブルに突っ伏した状態で死んでいた。死因は鈍器で頭を背後から殴られたことによる脳挫傷、…

さくらももこ「ひとりずもう」@江乃本

紹介(Amazonより) 『もものかんづめ』『たいのおかしら』『さるのこしかけ』『さくら日和』に続く、さくらももこの懐かし・おもしろエッセイです。 『さくら日和』以来の、6年ぶり書き下ろし。著者が最も得意とする少女時代に加え、今まで書いたことのない…

お題『すずめ』『詩』『フード』@三奈月かんな

役に立たないフードが風に揺れている。 アカリは、朗々と謳うようにメロディを奏でる親友を見ながらため息をついた。 親友であり、幼馴染でもあるユキは、コーラス部のエースで、素人のアカリが聞いても飛びぬけて綺麗だと感じる。 家の近くの公園で練習する…

燈乃ままれ『まおゆう魔王勇者』@窪屋

あらすじ 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」 勇者「断る!」王道RPGならば、クライマックスであるはずの勇者と魔王の対峙から本作は幕をあける。 魔王は勇者に、自分を倒しても戦争は終わらないと告げる。 人間と魔族の戦争を、本当の意味で終わらせるには…

時雨沢恵一「夜が運ばれてくるまでに」@麻木

○あらすじ 男の子と女の子は、隣りに住むおばあさんの家に遊びに行き夜が来るまでのわずかな時間に、いろいろなお話を聞くのが好きでした。―もう、あの村におばあさんはいません。男の子は、小説家になって、女の子は、歌手になって、ときどき、おばあさんの…

お題『歌舞伎』『パイロン』『もうちょっと』@師父

酩酊している。 「もうちょっとだったのになぁ」 酒と香水の匂いを振りまいて、歩く。 視界はぼやけ、音は遠く。 脳裏には、先刻の歌舞伎の情景。 「あの芸者さん、美人だったなぁ」 今まで見た誰よりも美しく見えたのは、酔いのせいだろうか? 思い出すだけ…

穂村弘「整形前夜」@青桐李

あらすじだが、と私は思う。日本女性の美への進化もまだ完璧ではない。例えば、踵。あの踵たちもやがては克服され、「おばさんパーマ」のように絶滅してゆくのだろうか。かっこ悪い髪型からの脱出を試み、大学デビューを阻む山伏に戦く。完璧な自分、完璧な…

お題『セミ』『文字』『山姥』@掛流野カナ

あれは、十数年前のことだ。僕はまだ小学生で、田舎の祖母を家族揃って訪れていた。 都会生まれ都会育ちの僕は、荷ほどきもそこそこに、大喜びで山へ虫捕りに出かけた。 都会ではセミが鳴くばかりだけれど、さすがド田舎の山。 カブトムシなんかが山ほど見つ…

お題『歴史上の人物』『発明』『火事』@助野 神楽

「いい加減、話してはもらえませんかねえ。源さん」 「あんたも、苦労性ですねえ。嘉門の旦那。あっしは何も見とらん知らんと言うとるでしょうが。このやりとり、何回目だと思ってらっしゃるんですかい」 「五回目ですかな」嘉門はすぐに答えた。 「わかって…

渡邉美樹「きみはなぜ働くか」@江乃本

内容 「きみたちは人生の主人公なんだ!」「夢なくして、何が人生だ」――。新たな挑戦を続けるワタミ会長・渡邉美樹が、「なぜ生きるか」「なぜ働くか」をすべての男女に問いかける。珠玉のメッセージ集。(本誌裏表紙より引用)感想 学生の身分である自分は…

お題『天使』『竜』『最初の物語』@窪屋 綾人

夜空を舞うは一匹の黒竜。その口から放たれた幾数もの火球は、山間の小さな町を飲み込んだ。 夜が明け、町中の物を燃やし尽くした炎が治まったころ、町の中心あたりで一人の少年が目覚めた。 「んぅ……あれ、どうして俺は?」 起き上がった少年が自らの両手や…

お題『夢』『雨』『机』@三奈月かんな

サアサアと、窓の外で雨が降っている。 くすんだ銀の雨。止まない雨。 ユミエールは机の上に腰かけて、カーテンが開けられた窓を、その向こうの世界をぼんやりと眺めていた。 まるで夢を見ているようだ。と頭の片隅で声がして、いやこれはただの現実だ。と別…

お題『魔法少女』『旗本』『桜吹雪』@師父

さて、魔法少女というものは、皆の夢だ。異論は無いな? ――よろしい。皆が紳士で私も嬉しいよ。 魔法少女といえば、あの衣装だろう。三次元の人間が真似をしようにも出来ない、絶妙なバランス。構造上の問題から、あの鮮やかな色合いを着こなす素質面の問題…

三上康明「恋の話を、しようか」@祈灯愁

あらすじ 地方都市の冬。 高校生の桧山ミツルは、予備校で顔も知らない三人の生徒たちと同じ部屋になり――テスト中に停電が起きた。 なんでもない、一度きりの偶然のトラブルをきっかけに四人は出逢い、惹かれあっていく。 見上げれば灰色の空から雪……。 クリ…

お題『冬』『禁じられた時の流れ』『サボテン』@奏彼方

「おはよ」 「おはよう、はいコーヒー」 「ありがと」 そう言って愛用のカップを受け取る。 「今日は寒いな」 「冬だもん」 何気ない言葉をかわす。 「あれ……」 「ん、どうした?」 「花が咲いてる」 見ると確かに部屋の隅でサボテンが白くて小さな花をつけ…

お題『墓』『赤い』『バラ』@さきん

「久しぶりね、ライザ」 真っ白な墓石に刻まれたライザの名前を指先でなぞる。 「……もう五年も経つのね」 なぞった手の薬指のダイヤが夕日で美しく輝いていた。 「あのね、私ライザのお兄さんと結婚することになったの」 だからね、今とっても幸せなのよ。ラ…

お題『紙』『モグラ』『嫁』@針古野虎

会社からの帰り道。私は久しぶりに商店街のゲームセンターに寄った。 家に帰りたくないからだ。私たち夫婦の間はとうの昔に冷え切ってしまっている。 今は妻と同じ家にいる事だけでも苦痛だ。私は彼女と離婚したい。 しかし、彼女はそれを認めてくれない。 …

三浦しをん「舟を編む」@掛流野カナ

あらすじ 言葉に対する鋭い感覚を買われ、新しい辞書『大渡海』の編纂に関わることとなった主人公「まじめ」。そんな彼が恋に仕事に奔走するお話。 感想 以前映画化されたときから気になっていたもののなかなか読めず、先日ようやく読むことができました。 …

お題『秘書』『冷凍室』『蝋燭』@助野 神楽

「次、僕の番だね。タイトルをつけるとしたら、『冷凍室にて消失』かな」Aが言った。 五人の男が各々胡坐をかいて、円を成すように座っていた。 中央には、火の灯った蝋燭が数本、消えたそれが数本。 「これはある中小企業の社長と、その秘書が体験した話な…

西尾維新「少女不十分」@江乃本

あらすじ作家として名を馳せる三十路の「僕」は、自分の物語作りの基礎となった、トラウマとも言うべき出来事を回想する。当時大学生だった自分と、あるきっかけで出会った少女との交流を描いた物語。感想この本を読み始めた上で最初に気にかかったのは、こ…

三秋 縋「三日間の幸福」@祈灯愁

あらすじいなくなる人のこと、好きになっても、仕方ないんですけどね。どうやら俺の人生には、今後何一つ良いことがないらしい。 寿命の”査定価格”が一年につき一万円ぽっちだったのは、そのせいだ。 未来を悲観して寿命の大半を売り払った俺は、僅かな余生…

お題『図書館』『鍵』『ストラップ』@窪屋 綾人

『私は図書館でストラップの付いた鍵をなくした』 一行だけポツンと書かれたノートを見て、早織はぼやく。 「なにこれつまんない!」 そう言って彼女は手元のノートをパタンと閉じた。表紙に『三題噺帳』と書かれているそれは、彼女自身が課した毎週の課題で…

お題『ザリガニ』『橋』『テント』@三奈月かんな

釣り上げられ、橋の上に置かれたバケツに放り込まれたザリガニが泡を吹き出している。わずかばかり入れられた水すら照りつける太陽で茹だっているのだろうか。 たまに底を這う音がして、まだ生きているんだなと確認できた。 季節は夏真っ盛り。人を刺し殺せ…

お題『ペン』『傘』『水草』@師父

『ペン』『傘』『水草』 水性ペンの、紙と擦れるあの摩擦が、僕は嫌いだ。 彼女はノートにピンクのマーカーを引いていく。胃の縮むような音を立てて。 清潔な部屋。硬質な音。微かなカルキの臭い。ぬめりとした感触。 プレパラートに載せた水草は、下から照…

お題『ロッカー』『花』『石けん』@奏彼方

卒業式の後、私たち夫婦と担任の先生は茜色に染まる教室に来た。なんでも、さくらの私物がロッカーにまだ残っていたらしい。 教室に入って一番に目に入ったのは、黒板に書かれた「卒業あめでとう」の文字とそれを取り囲む寄せ書きだ。 子供たちがここでかけ…