三題噺

「かき氷」「サマーソルト」「ハリケーン」@古川砅

金曜日の夜、寿司子とサイゼリヤで飲んでたら「ねえアヤちゃんー、かき氷食べにいこうよー」ってワインを空けた寿司子が突然言い出したのね。私はプチフォッカでドリアをさらうのに忙しかったから、あーそいえばすぐそこミニストップだったねーうん食べたい…

「蛇」「紫色」「裏切り」@すきーむ

太陽に向かって吼える蛇。山道。 マラソンランナーのような孤独。 汗が伝ってゆく先を食い止める。その首筋。脈動。 そのリズムとは裏腹に、のんべんだらりと鐘が鳴る。 夕方五時の鐘が鳴る。 反響して、街に降りそそぐ。 そのうちに日没がやってくる。この…

「色」「歯」「荷」@翔輝

舞台を包み込む透明な幕が上がり、闇の中の役者達が光を得てその輪郭をあらわにする。やがてそれは虹のように鮮やかに煌めき、波打つように動き始め……。 ……何のことはない、朝が来て目が覚め、視界に水縹のカーテンが映っただけである。 低血圧で言うことを…

「リンゴ」「ポケットティッシュ」「香水」@間雁透

僕は呪われている。「ほら、見て? 途中で切れないように練習したのよ」 僕一人だけの台所で、僕はピーラーでリンゴを剥く。皮はバラバラになって、シンクに落ちていく。包丁を使わなければ、桂剥きなんて無理だ。僕には一生できそうにない。「切ったリンゴ…

お題「病院」「アイスクリーム」「実験」@助野神楽

どちらが北だっただろうか。一瞬、そんなことを思いついた。 きっかけは分からない。脈絡も秩序もないのが思考である。 さらに考えを進めてみた。 ここの病院のエントランスは北西を向いている。つまり歩く方向は南東。 右手にあるエレベーター乗って、五階…

お題「曇天」「アンコール」「医者」@すきーむ

ただ そんなふうに 破れた景色も 曇り空も ただじっとそこにあるだけ 最後に震わせた弦をミュートする。和音の余韻が消えるか消えないかのところで、一礼する。十畳くらいの会場は拍手に塗り替えられる。 アンコールは、一曲。なんとなくそう決めている。さ…

お題「花火」「シャワー」「延滞金」@古川砅

これは時間旅行が今ほど規制されていなかったころの話なのだけれど、夏が暮れると、僕は決まって2012年の8月に飛んでいたんだ。 向こうに着くと僕はまず、都心近くで日雇い労働を転々とする。4,5万円ほど稼いだら、朝一番に駅に向かって、なるべく遠くに行け…

お題「脳」「夏」「名」@御定言兵衛

カランコロン。カランコロン。 俺の部屋にやって来た夏が、グラスの氷を溶かしながら音を立てる。 ミーン。ミーン。 少し気の早過ぎた蝉が一人部屋の外で淋しさを訴えている。まだ世間は花見だなんだと浮かれているのに俺だけが夏と共にいるようだ。部屋には…

お題「市場」「巣」「灰色」@すきーむ

カラフルな果実たちは、いびつな形をその日陰で休めていた。 通りを往く人はまばらで、となり近所のオーナーたちもそれぞれのシエスタを過ごしている。読書に耽る者もいれば、ちょうど片袖を編み終わった者もいる。 客足は凪いでしまった。昼過ぎまでに見知…

お題『雨宿り』『地図』『刀』@古川 砅

木の葉と土に打ちつける、絶え間ない音。 地面から立ち上がる、熱と湿気。草の匂い。 僅かに吹き寄せる、冷涼感。 雨だ。 そして、ここは、どことも知れない、山奥だ。 「あの山、あるだろ。あそこに良い釣り場があって」 「俺は、釣りに興味は無いんだが」 …

お題「金貨」「アリ」「悪魔」@間雁透

担任の先生に頼まれて手伝いをしているうちに、すっかり遅くなってしまった。とは言っても夏は日が長いので、窓の外はまだまだ明るい。じりじりと日が射して、うるさいくらいに蝉が鳴いている。 階段を下りて、下駄箱へ向かう。今日は部活の練習はないし、こ…

 お題『海の家』『夢』『ライター』@助野 神楽

夢を見ていた気がする。 目を開けて、広がる世界は白い。 真上の景色は普段見ていないために、目を覚ますたび自分の現状に混乱する。 眠る前の自分と今の自分は本当に同一なのか、そんな幻想的な疑問に駆られる。ほんの一瞬だがそう信じ込んでしまう。 それ…

「棒」「鷹」「飛ぶ」@掛流野カナ

僕の目の前、いや、目線よりもわずかに高い位置に、白い棒がかかっている。 これはただの棒ではない。 僕が超えなくてはならないひとつの壁である。 夏。 自分と同じ中学生で溢れた、陸上競技場。 棒(いわゆるバーのことだ)から数m離れた場所で、僕はそれ…

 お題『汽車』『ワイン』『賭け事』@助野 神楽

奇妙なほど振動を感じない。 もしうたた寝でもしてしまえば、起きた時には自分が今どこにいるのか完全に捉え違えることだろう。 それに加えて、車窓から見える景色は遠くに田園地帯が広がっているだけだ。 遠くには河が見える。遠目からみればゆるやかな層流…

お題『望遠鏡』『丘』『秘密』@助野 神楽

「子供の頃はさ、近い方が良く見えるんじゃあないかと思って、高い山に登ってさえみれば良いって思ってたんだよなあ」 「今の認識は?」 「十五歳の時、実験的に富士山山頂で見てみたら、もう息を飲むほど綺麗だったことが僕の勘違いを助長したんだろうな。…

 お題『時計』『懐中電灯』『地下街』@助野 神楽

壁はコンクリートの打ち放しで、スペーサの跡が格子点のように見える。部屋全体は単調な直方体で、奥行きはあるのにも関わらず、圧迫感が多方向から感じられた。 後方には、当然だが自分が入って来た扉。そして私から見て対辺の壁に同じような扉があった。 …

お題『ピアノ線』『缶』『スタイリッシュ』@青桐 李

「ねぇねぇ、ピアノの中身で人が殺せるのよ」 私がピアノを弾いていると妹が後ろから声をかけてきた。撮影から帰ってきたところらしい。妹は写真のモデルと、その写真につける文章を書くという趣味とも仕事とも言い難い活動をしている。「そうね、ピアノ線ね…

 お題『遊園地』『バックヤード』『触覚』@助野 神楽

ここはどこだろうか、という一瞬の感覚。 人の記憶は、パノラマ写真のように連続したものではなく、デジタル時計のような断続的なものなのだと思い当たる。 目の前では微かな光線が、乱雑な表面の壁に鉄格子のような模様を描いていた。 他には、闇。 厳密に…

 お題『グラウンド』『SF』『目薬』@三奈月かんな

しぱしぱする目をぎゅっと閉じて、かなえは目の前に広がる景色を遠ざけた。いつも使っている目薬はあいにくと昨日きれたところだった。 教室の窓から見えるグラウンドでは、陸上部員が今日も元気に走っている。かけ声、足音、ホイッスル、水音、砂のはねる音…

お題『アヒル』『紅茶』『麻雀』『桜』@窪屋

三題噺というか四題噺ですが、そこはお気になさらず。 暗い部屋の中心には一台の雀卓。俺は扉から一番離れた側に座っていた。右隣にはひょろい幸薄そうな男、左隣にはスーツを着こなした男が座っている。二人の本名は知らないが、それぞれ『桜男』と『紅茶男…

お題『自画自賛』『パパラッチ』『新聞配達』@師父

ねぇ、刑事さん。例えば、です。あなたが人数の少ない弱小の部活に所属していて、活動実績を上げなければ廃部と言われて。それでも必死に立て直そうとしたなら、どうします? 私は新聞部に所属していたんですけどね、ええ、学校内のイベントを取り上げて記事…

お題『ダイイングメッセージ』『障子』『台所』@助野 神楽

「事件が起こったのは片田舎にあるごく普通の日本家屋。被害者はその家に住む主婦だ。亭主は表具師をしている」 先輩は唐突に話し始めた。 「被害者はリビングのテーブルに突っ伏した状態で死んでいた。死因は鈍器で頭を背後から殴られたことによる脳挫傷、…

お題『すずめ』『詩』『フード』@三奈月かんな

役に立たないフードが風に揺れている。 アカリは、朗々と謳うようにメロディを奏でる親友を見ながらため息をついた。 親友であり、幼馴染でもあるユキは、コーラス部のエースで、素人のアカリが聞いても飛びぬけて綺麗だと感じる。 家の近くの公園で練習する…

お題『歌舞伎』『パイロン』『もうちょっと』@師父

酩酊している。 「もうちょっとだったのになぁ」 酒と香水の匂いを振りまいて、歩く。 視界はぼやけ、音は遠く。 脳裏には、先刻の歌舞伎の情景。 「あの芸者さん、美人だったなぁ」 今まで見た誰よりも美しく見えたのは、酔いのせいだろうか? 思い出すだけ…

お題『セミ』『文字』『山姥』@掛流野カナ

あれは、十数年前のことだ。僕はまだ小学生で、田舎の祖母を家族揃って訪れていた。 都会生まれ都会育ちの僕は、荷ほどきもそこそこに、大喜びで山へ虫捕りに出かけた。 都会ではセミが鳴くばかりだけれど、さすがド田舎の山。 カブトムシなんかが山ほど見つ…

お題『歴史上の人物』『発明』『火事』@助野 神楽

「いい加減、話してはもらえませんかねえ。源さん」 「あんたも、苦労性ですねえ。嘉門の旦那。あっしは何も見とらん知らんと言うとるでしょうが。このやりとり、何回目だと思ってらっしゃるんですかい」 「五回目ですかな」嘉門はすぐに答えた。 「わかって…

お題『天使』『竜』『最初の物語』@窪屋 綾人

夜空を舞うは一匹の黒竜。その口から放たれた幾数もの火球は、山間の小さな町を飲み込んだ。 夜が明け、町中の物を燃やし尽くした炎が治まったころ、町の中心あたりで一人の少年が目覚めた。 「んぅ……あれ、どうして俺は?」 起き上がった少年が自らの両手や…

お題『夢』『雨』『机』@三奈月かんな

サアサアと、窓の外で雨が降っている。 くすんだ銀の雨。止まない雨。 ユミエールは机の上に腰かけて、カーテンが開けられた窓を、その向こうの世界をぼんやりと眺めていた。 まるで夢を見ているようだ。と頭の片隅で声がして、いやこれはただの現実だ。と別…

お題『魔法少女』『旗本』『桜吹雪』@師父

さて、魔法少女というものは、皆の夢だ。異論は無いな? ――よろしい。皆が紳士で私も嬉しいよ。 魔法少女といえば、あの衣装だろう。三次元の人間が真似をしようにも出来ない、絶妙なバランス。構造上の問題から、あの鮮やかな色合いを着こなす素質面の問題…

お題『冬』『禁じられた時の流れ』『サボテン』@奏彼方

「おはよ」 「おはよう、はいコーヒー」 「ありがと」 そう言って愛用のカップを受け取る。 「今日は寒いな」 「冬だもん」 何気ない言葉をかわす。 「あれ……」 「ん、どうした?」 「花が咲いてる」 見ると確かに部屋の隅でサボテンが白くて小さな花をつけ…